日本の研究人材・科学技術人材について考える

日本の研究人材・科学技術人材政策について考える

日本の研究人材・科学技術人材をめぐる状況や施策等について、政府や関係機関の公表データなどから考えたことを記録しています。

科学技術人材政策の特徴と分析②

科学技術人材政策における課題への対応

 ここまでの記事を通じて、日本の科学技術人材をめぐる状況等を見てきたが、これらを踏まえた科学技術人材政策における主な課題としては、博士号を持つ高度研究人材の育成と活躍の場の確保、女性研究者の活躍促進といったことが、喫緊の重要課題としてまず挙げられる。さらに、今後、日本の人口減少が進むことなども踏まえれば、次世代の科学技術人材の育成や、国際的な人材交流、外国人研究者の受入れといった課題も重要となってくる。

 これらの課題への対応は、いずれも日本の科学技術力、研究力を維持・向上させる上で欠かせないものであり、科学技術人材政策においては、大学院教育の充実による高度研究人材の育成や、研究ポストへのマッチング支援、国立大学における人事給与マネジメント改革の推進等の施策が展開されているが、以下では、高度研究人材の量と質の確保、研究ポストの量と質の確保という観点から、これらの施策について改めて位置づけてみるとともに、日本の科学技術人材政策を概観し直してみることとしたい。

 

高度研究人材の量と質の確保に関する施策

 科学技術人材政策を高度研究人材の確保という観点から見てみると、人材の量的・質的確保の根本となる人材養成制度としては、1974年の大学院設置基準、学位規則制定等によって大学院制度が確立されており、2000年代には博士課程の定員拡大などの対応も図られている。しかし、制度的な対応が図られている一方で、近年、日本人の現役学生の博士離れが進んでいることが大きな課題となっており、博士課程学生への経済的支援の充実等に関する施策が推進されている。

 また、人材の量的確保に関して、産業界等での博士人材の活躍が限定的であることについては、民間企業における高度研究人材のポスト拡大に向けた対応と一体的な取り組みが必要と考えられるが、採用される博士人材の側のエンプロイアビリティの向上という観点からは、人材の質的向上に関する施策における対応も重要となる。この点については、すでに大学院教育改革によって社会的なニーズへの対応が進められているほか、ポストドクター等の若手研究者の産官学を通じた多様なキャリアパスの実現に向けて、研究者のトランスファラブルスキル等を向上させるような施策も展開されている。なお、これらの施策は、人材の養成と再訓練に関する施策として捉えることもできるものである。

 上記のような、人材の養成と再訓練に関する施策は、いわば潜在的な人材の確保に必要なものであるが、実際のポストに配置・採用される人材の具体的な確保に関しては、ポストと人材のマッチングに関する支援策が求められる。こうした点については、科学技術振興機構の「JREC-IN Portal」や、文部科学省の「卓越研究員事業」において、高度研究人材と産官学を通じた研究ポストとのマッチングに関する支援が行われている。

 このほか、女性研究者の活躍促進は、人材の量的確保の問題として整理できるが、博士課程への進学率では男女の差はほぼ見られず、大学進学の段階での女子学生の理工系離れに対する対応が課題であり、科学技術振興機構の「女子中高生の理系進路選択支援プログラム」等の取組が進められている。

  

研究ポストの量と質の確保に関する施策

 科学技術人材のポストの量と質に関する課題としては、国立大学等における若手ポストの減少・不安定化や、民間企業における博士人材の採用拡大が大きな課題となっており、第6期科学技術・イノベーション基本計画(2021年)においても、それぞれに対応した目標や施策が盛り込まれている。

 国立大学の若手研究者ポストの減少については、各大学における教員の人数構成の高年齢層へのシフトが背景にあり、各大学において、教員の年齢構成の適正化等に向けた主体的な対応が図られるべきものである。こうした課題に対しては、国立大学の人事給与マネジメント改革が推進されており、運営費交付金の算定指標等による取組へのインセンティブ付けも行われている。また、各大学において、競争的資金等を弾力的に活用して取組が進められるよう、競争的研究費の直接経費から研究代表者(PI)の人件費の支出を行えるようにするなどの制度的な改善も図られている。

 また、大学の研究活動については、基盤的経費と競争的資金によるデュアルサポートが行われているが、今後、学生数が減少していく中で、基盤的経費への支援額の増加が見込まれない状況においては、国家戦略として研究開発を進めていく分野等について、競争的資金等の充実が図られることが重要であり、これらの財源が研究ポストの創出にも活用されるような仕組みの整備がより一層必要となると思われる。

  一方で、大学における研究ポスト数の拡大には、一定の限界が存在することは明らかであり、産官学を通じて、高度研究人材が活躍できるポストを確保することで、日本全体としての科学技術活動を支える基盤を整えることが必要である。

 そのためにも、産業界における博士人材の採用拡大は喫緊の課題である。日本の研究者の約7割は民間企業の所属であり、研究ポスト自体は相当数存在していることから、その一部を博士人材のポストとして活用することが望まれる。現在、産官学を通じた博士人材の研究ポストを確保するための施策として、卓越研究員事業が実施されているが、参加企業が少ないことや支援対象人材が限定的であるなどの課題があり、より効果的な事業の実施に向けた改善が求められている。

 

 研究ポストの質に関しては、国立大学等における若手ポストの不安定化が問題となっており、特に研究大学における若手教員のポストの多くが有期雇用となっていることは、様々な場面で課題として取り上げられている。研究者のキャリアパスにおいて、若手研究者の時期に、一定の競争的な環境で力をつけていく経験は重要であるが、中堅以降の年代においても多くの研究者が不安定なポストを繰り返すような状況は、若手人材の確保の面にも影響を及ぼすものであり、第6期科学技術・イノベーション基本計画においては、新たな数値目標として、研究大学における35~39歳のテニュア教員及びテニュアトラック教員の割合に関するものが盛り込まれている。研究ポストの安定性の確保に関しては、国立大学の人事給与マネジメント改革における取組の推進のほか、前述した「卓越研究員事業」においては、支援の対象となる研究者ポストを、テニュアトラック等の安定的なポストに限定することで、各大学・研究機関等における安定ポストでの公募を拡大するインセンティブとしている。

 また、個々の研究者のキャリアパスの観点からは、ポスドクやプロジェクト雇用の特任教員等の有期雇用のポストから、次のステップとなる安定ポストへの円滑な転換が重要となる。そのためには、ポスドク等のポストの質に関して、研究に集中できる一定期間の任期や研究エフォートの確保が図られるとともに、その後のキャリアパスへの不安を解消できるような環境整備が求められており、産官学を通じた安定ポストの確保と人材の流動を図るシステムを確立することが重要である。人材の流動化の促進は、人材の量的確保に関する施策と整理されるものであるが、現在の課題に対応するためには、これらの支援が一体的に行われることが必要である。