日本の研究人材・科学技術人材について考える

日本の研究人材・科学技術人材政策について考える

日本の研究人材・科学技術人材をめぐる状況や施策等について、政府や関係機関の公表データなどから考えたことを記録しています。

研究人材需給のミスマッチ②(生物分野、農学分野)(研究者ポストの状況④)

研究人材需給のミスマッチが大きい分野

 前回の記事では、学校基本調査と科学技術研究調査のデータを用いて、就職率が5割を下回る「人文科学」「生物」「農学」の3つの分野を研究者としての人材需給のミスマッチが大きい分野として指摘するとともに、「人文科学」の分野については、厳しい状況が続くと思われるという分析を行った。今回は、「生物」と「農学」の分野についての状況等を見てみることとしたい。  

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「生物」分野は、研究人材が必要以上に減少している可能性

 「生物」の分野については、民間企業全体における「生物」の研究者数は、8,768人(理学の全研究者数は133,080人)で、他の分野より低いものの、極端に少ないというわけではない。「医薬品製造業」「食料品製造業」「化学工業」などでは、1,000人以上の研究者が活躍している。これらの3業種合わせると、例年、研究者を4,200~4,300人程度採用しており、理学の分野でも1,500人程度を採用している。一方で、この3業種での博士号を持つ者の採用は、200~300人程度にとどまっている。ただ、「生物」分野の博士課程修了者数を見ると、2020年では、全体で153人であり、アカデミアでの就職もあることに鑑みれば、必ずしも過度な水準とは思われない。むしろ、民間企業での研究者としての博士人材の活用が進めば、人材が不足する可能性も考えられる程度の水準とも考えられる。

 「生物」については、1990年代の大学院の量的拡大の際に、博士課程への入学者が倍増し、1990年には156人であった入学者が、ピーク時の1998年には330人へと増加したが、直近の2020年の入学者は105人にまで落ち込んでおり、1990年の入学者数を下回っている。1990年代に学生数が拡大した際の印象が関係者には深く残っていると思われるが、現在の実際の数値等は以上の通りであり、あまり過度にミスマッチを喧伝することは、進学を検討する学生の博士離れを不当に助長することとなりかねず、留意が必要と思われる。

 

「農学」分野は、需給ともに絶対数が少ない

 「農学」の一部の分野については、博士課程修了者数が全体でも1桁の場合もあるなど、極めて少数であり、個別の事情の影響が大きく出ると思われるが、民間企業の研究者としての採用は、農学全体で千人程度である。博士号採用者の比率は、民間企業の研究者の採用全体で4%未満であることから、数十人程度の規模になると考えられる。

 「農学」の分野については、公的機関などのポスト減少の影響もあり、その分を民間企業の人材需要でカバーすることは難しいと考えられ、研究人材の需給のミスマッチが生じやすい状況にあることは否定できないと思われる。ただ、そもそもの人数自体がかなり少数であることから、生物の場合と同様に、人材の供給が過剰な水準とまで断じるのは難しいように感じられる。

 

人材需給のミスマッチへの対応

 こうした人材需給のミスマッチが生じている分野については、計画的な人材育成の失敗であり、拡大してきた定員を縮小すべきであるという意見を聞くことがあるが、日本の現在の博士人材の活用状況は他の先進諸国と比較して極めて限定的であり、潜在的な需要や将来的な需要が大きく存在する可能性も高い。現在、民間企業での採用数が少ないということが、高度研究人材の真の需要を正しく表しているとは限らないことに留意が必要と思われる。諸外国では、GAFA等が博士人材を多数採用して、躍進を遂げているが、日本でも、研究者自体の採用は増加しており、高度研究人材の活躍も拡大の途上にあるとも考えらえる。

 博士課程まで修了した人材の能力が活用されないのは、社会的にも大きな損失であり、研究者としての需要が限られる分野については、様々な高度な専門的職業で活躍できる環境の整備を図るなど、日本における高度専門人材の活用という観点からの対応を行うことが重要と考えられる。一方で、以前の記事でも述べたように、博士課程教育においても、社会的要請を踏まえた教育の充実や、より汎用的な能力や幅広い視野を持たせるような取組を充実していくことが重要である。

 

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各国企業における博士号取得者の状況(第84回大学院部会参考資料5より転載)

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博士号取得者数と一人当たりGDPの相関(第84回大学院部会参考資料5より転載)

(参考)

学校基本調査:文部科学省

統計局ホームページ/科学技術研究調査