日本の研究人材・科学技術人材について考える

日本の研究人材・科学技術人材政策について考える

日本の研究人材・科学技術人材をめぐる状況や施策等について、政府や関係機関の公表データなどから考えたことを記録しています。

博士号取得者と満期退学者の状況(研究者育成の状況④)

博士号取得者数の減少傾向

 日本の博士号取得者数は2006年度の17,860人をピークに減少傾向にあり、近年は1万5千人台となっている。直近の2018年度では15,143人となり微増している。対前年度比0.5%増の15,118人となった。分野別では、「保健」次いで「工学」が多く、入学者等と同様の傾向となっている。なお、この博士号取得者数には、博士課程修了者のみでなく、いわゆる論文博士等の数も含まれている。

 以前の記事(「日本の博士号取得者数、女性研究者数(国際比較②)」)でも述べた通り、先進主要国やアジア諸国においては,国際競争力の強化等のために博士号取得者を増加させてきている。

 諸外国が博士号取得者の増加と高度研究人材等としての活躍促進を図り、研究力や国際競争力を向上させている中で、日本では、博士号取得者の数やその活躍が停滞しているという状況は、日本の科学技術力やその国際的な地位等にもマイナスに影響していると考えられ、早急に状況の改善が図られるべき課題である。

 科学技術人材とは少し離れてしまうが、人口100万人当たり博士号取得者数が多い国は一人当たりGDPが高い傾向にあることや、グローバルなビジネス環境では,博士号を取得していることが対等な交渉を行うための前提要件となっているといった指摘は、これまでも様々な関係者から数多くなされており、博士号取得者の増加と活躍促進を図ることは、科学技術力向上以外の側面でも日本にとって重要な意義を持つものと考えられる。

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博士課程修了者の4人に1人は、満期退学

 博士号取得者の中には、博士課程修了者のほかに論文博士等が含まれることは前述のとおりであるが、逆に博士課程を経たものの博士号を取得できていない者(満期退学者)も一定数存在する。直近の数値では、博士課程修了者のうち、約24%が満期退学者となっている。

 

 満期退学者の比率は分野別の差が大きく、人文科学・社会科学では他分野よりも満期退学者の比率が高くなっている。2005年9月の中央教育審議会答申「新時代の大学院教育-国際的に魅力ある大学院教育の構築に向けて-」において、円滑な博士の学位授与の促進について提言がされて以降、満期退学者の比率は低下してきているが、依然として、分野間の格差等は解消されていない。

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満期退学者の状況(出典:令和2年度学校基本調査)

 安易に博士号を出すことを求めることはできないが、特に満期退学者の比率が高い分野については、選考の時点での判断や、初期の時点からのサポートの充実などにより、状況の改善を図ることが必要と思われる。満期退学者がかなりの比率で存在するという状況は、課程制大学院の趣旨にもそぐわないものであり、大学院教育の実質化の観点からも、引き続き、適切な対応が求められるものと考える。

 なお、米国等では、学位を取得せずに課程を修了するという概念はなく、満期退学者を博士課程修了者に含めるような扱いは、日本独自のものである。満期退学者を博士号取得者と同等に扱うことで、国内的には特段の支障は生じないかもしれないが、諸外国との交渉などの場面では、そうした扱いは通用せず、日本の高度人材育成システムの構造的な弱点にもなりかねない。人文科学・社会科学を含め、博士課程教育を経た多くの人材が、国内外の多様なキャリアパスで活躍することを推進する上でも、満期退学者を減少させるための取組は重要と考えられる。

 

(参考)

科学技術指標2020・html版 | 科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)

学校基本調査:文部科学省